フェラーリエンジン搭載の高級サルーン
ラリーを席巻したランチアは決して経営的にうまくいったブランドではありません。しかし、その不器用さゆえに生まれたクルマたちの中には趣深く、味のあるモデルが数多あります。
今回はその筆頭と言っても過言ではないテーマ8•32を試乗する機会を頂いたので存分にインプレッションします。ティーポ4プロジェクトの一環で作られたテーマは兄弟者にアルファロメオ164やサーブ9000を持ちます。その中でも特に面白いエンジンラインナップのテーマ。今回はハイエンドの8•32を特集しますが他にもアルファロメオとルノーのV6、デルタと同じ2Lターボの4気筒モデルも存在します。
ランチアテーマ8•32のデザイン
フロントマスクはランチア共通のグリルです。グリルのメッシュは大きい格子状になっていてこれは8•32専用のデザインになっています。
ライトは前期と後期で異なりますが、こちらの車両は1989年式の後期モデル。前期よりもライトが小さいのが違いです。これはアルファロメオ164も同じパターンでライトが小さくなりますね。
リアは4段の大きめなテールライトです。遠目から見るとクラウンコンフォートに見えるというのはきっと禁句。
サイドビューは典型的なミディアムクラスセダンという印象。ボディ色に近いグレーと黄色のコーチラインがデザインのアクセントになっています。
黄色はテーマ8•32共通で、上のラインの色はボディ色に合わせて異なります。手書きのピンストライプなのですが、オリジナル部分は非常に”イタリアの温もりを感じる”仕様になっています。
ホイール、タイヤは専用品。フェラーリ348の純正ホイールと似たようなデザインになっています。タイヤはグッドイヤーがランチアテーマ8•32のために作っていた専用モデル。この時代のセダンとしてはハイパワーな200馬力を受け止めます。
テールパイプは2本出し。本国ではもっと外側に向いているのですが、日本の保安基準では30°以内にする必要があるのでカットした後に溶接し直して30°にして適合させています。
一見すると普通のセダンなのに、いかにもスポーティーなマフラーカッターなのがギャップ萌えポイント。
ランチアテーマ8•32の最大の特徴はこのウィングです。トランク内に格納することが出来る可変タイプ。そのためトランクはやや高さを失いますがFFなのでそれでも尚巨大なトランクであることには変わりありません。
ランチアテーマ8•32の内装
自動車で初めてポルトローナフラウが手掛けた内装です。後にアルファロメオブレラやランチアテージスの内装もフラウがデザインしますが初代の気合の入れようは凄まじいです。シートのリクライニングなどは電動で、シートヒーターも装備されます。着座位置は高めで、身長173cmの私ですら天井に頭が触れそうなほど。
ステアリングもステッチが際立つレザー。この車両は同色の合皮を上から被せていますが再現度はかなり高いです。
ドアとメーターのインパネはアフリカンローズウッド。美しい木目が高級車の証です。
後部座席も運転席と同様のステッチ、デザインになっています。後部座席は比較的ゆとりのある広さで、シートも運転席よりだいぶ柔らかいものを採用しています。
ペダルはイタリアンポジションでアクセルとブレーキは近めです。
試乗インプレッション
かなり短いセルの音の直後にフェラーリエンジンが始動します。ベースとなる308とは異なりクロスプレーンクランクを使用しているので音は低め、低回転ではドロドロした響きです。アクセルは非常に重く、しっかり踏む必要があります。
軽めのクラッチはストロークが短く、繋がる瞬間にすぐに動き出そうとするパワーを感じます。低回転から高回転まで綿密に回るエンジン。1速から2速、3速とリズム良くシフトアップするとあっという間に60km/hに達します。1.4tの車重に205馬力のパワーは現代のクルマに乗り慣れている人でも”速い”と感じるはずです。
4000rpmほどから吸気音が顕著になり、5000rpmを超えると極めてスムーズな吹け上がり。フェラーリエンジンではありますが、フェラーリとは明確に異なる音がします。
羊の皮を被った狼とはよく言ったものですが、ランチアテーマ8•32も御多分に洩れずそれでしょう。おじいちゃんが乗ってそうなクラシックなセダンがまさかフェラーリエンジンをボンネットの下に潜ませているとは思いもしません。
ブレーキはエンジンブレーキとセットでちょうど良いです。アクセルを踏んでいる時以外はフロントが少し沈み込む感覚があります。
ランチアテーマ8•32はもちろん回して楽しいクルマではありますがそれよりも上質さや贅沢さが際立つ高級車という印象の仕上がりでした。フェラーリエンジンのセダンというと5代目クアトロポルテや現行のジュリアクアドリフォリオGTAmなどがありますがテーマ8•32はそのご先祖様です。特別な一台を運転できたのは貴重な経験でした。