高級SUVの先駆け
今のSUV人気は異常だと思いますが、2000年以前はそこまで種類はありませんでした。
SUVのジャンルにも様々ありますが、ラングラーのような本格クロカン、カイエンを筆頭とする高速巡航マシーン、その中間に当たる万能タイプなどです。レンジローバーは1970年代に登場した本格クロカン×ラグジュアリーという独特なモデルでした。
初代、2代目はラダーフレームに前後リジッドアクスルという明らかにオフロード向けな仕様にエアサスを組んで乗り心地を担保しています。今高級SUVというとGクラスが思い浮かぶと思いますが、Gクラスでもちゃんと高級車として確立したのは1990年代頃です。
今回特集する3代目レンジローバーはレンジローバーとして初のモノコックボディに4輪独立懸架のエアサスを搭載。走破性は保ったままより高級感を演出したモデルになりました。
レンジローバーヴォーグのデザイン
2011年式の後期モデルはライト形状やグリルのデザインが見直されて、フェーンダーのグリルやドアノブがボディ色になるなどの変更が施されています。
巨大なボディは迫力満点。初代の面影を感じるのはやはりシルエットと窓の大きさ。
窓の縁を黒くすることで、メリハリが付くデザインは昨今他のクルマにも見られますが、やはりレンジローバーがそのパイオニアだと思います。ノーマルは19インチですが、この車両は20インチに変更されています。
テールライトのデザインは、4代目にも繋がる縦2灯を内蔵したようなスタイルです。初代のような縦長のライトはボディサイズに対してコンパクト。これがクラシカルなイメージを与えてくれます。
ボンネット上にバッジが貼られているのは、某M菱がパクっていますね。継承されるデザインがあるというのはアイコニックで良いと思います。
レンジローバーヴォーグの内装
大きめのステアリングは高級感のある革張りです。
ボタンはたくさん付いていますがハンドル操作の邪魔をしないので特に気になりません。
レンジローバーといえばこのシート。パイピングが色分けされていて、こちらもクラシカルな演出。白というよりかはクリーム色です。センターコンソール側にアームレストがありますが、シートが大きめでホールド感も控えめなので助かります。
リアシートも同じようにパイピングが目立ちます。一応5人乗りですが中央のシートは座り心地があまりよく無いです。リアシートに座ると、フロントシートよりもさらに高い着座位置に気付きます。そうなんです、後ろの席でもフロントウィンドウから景色が見えます。これ良いです。
こんな感じでドリンクホルダーとして使うのが良さそうです。窓が低くて開放感が抜群です。
センターコンソールはウッドが縦に突き刺さるように配置されています。まるで高級家具に囲まれているような風格です。センターコンソールのボタンは主に空調関係。ナビも純正でこのように埋め込まれるデザインになっています。
試乗インプレッション
一般道
とにかく感じるのは着座位置の高さです。幅195cmと大柄ですが、見切りが良いのであまり気を使わずに運転出来るクルマです。
コマンドポジションと呼ばれるこの景色はレンジローバーの最大の特徴であり、乗りやすさの根幹です。ボンネットの左右先端はキャッスルコーナーという名称で、オフローダーらしく四隅が完全に見えることを設計の中で重視しています。
ミラーはほぼ正方形で、リアの角もしっかり見えます。キャビンは幅広になっていて、ドアパネルは垂直にストンと落ちるようなデザイン。グラマラスでキャビンが狭いカイエンとはかなり違います。
BMW資本時代に3rdレンジが設計されたからか、アクセルペダルはオルガン式です。やや手前に配置してあります。このアクセルペダルの角度からも分かると思いますが、シートの座面が高く、自動車のシートというよりはテーブルチェアに近いです。ブレーキの制動力はエンジンパワーに対してやや物足りなさを感じますが、下道で頻繁にブレーキを踏んでも前後の荷重移動が最低限なので同乗者は疲れにくいでしょう。
ステアリングはほんの少しの遊びだけで、綺麗に動きます。さすがに4輪独立懸架なのでハンドルの切れ角も十分ですから、5m近いボディでも困ることはなさそうです。
下道ではエンジンの音がフロア下から聞こえてきます。後期のレンジローバーヴォーグは5Lのジャガーエンジン。エンジン音は車内にしっかり響くのであえての演出なのでしょう。最高出力375ps、最大トルクは52kg・mと贅沢なエンジンです。ライバルではカイエンSやGクラスのAMGではないV8モデルに並びます。
シフトレバーの手前にエアサスの操作と路面に合わせた走行モードの選択ボタンがあります。
高速道路
高速道路でもやはり視点の高さが安心感を与えます。見通しが良く、トラックだらけでも怖くありません。
アクセル開度80%くらいで4000rpmでシフトチェンジします。アクセルを話すとすぐにギアを2段ほど落とすので、80km/hでの回転数は脅威の1200rpmです。やはり燃費を考慮してのセッティングなのでしょうが、静粛性にも貢献しているのでこれは快適です。ちなみにオーナーさん曰く高速で8km/L、一般道で5km/Lくらいらしいです。低回転で転がせるからこその低燃費ですね。
乗り心地は快適そのもので、”流す”という表現が最適です。エアサスではありますが、フニャフニャではなくしっかり路面の状況は把握できます。この辺りはオフローダーの地を感じます。
高速道路ではさほどブレーキの不足感は顕著ではなく速度調整のしやすさの方が印象的でした。さすがに2.5tのボディは重いです。
積載能力
レンジローバー伝統の上下に開くスタイル。ランクルやロールスロイスカリナンなどもこれを採用していますね。
やはりレンジローバーというと悪路を走ってハンティングに行き、この開けたトランクに座って紅茶を飲むイメージなので必須の装備と言えます。
ゴルフバッグも横向きに積めるので積載能力はかなり高いです。フロアが高いからこその荷室の広さでしょう。ちなみにトランクの下側もダンパーで支えているのでゆっくり開きます。
上だけ開けることも出来るので便利。カイエンだと窓だけ開くのですが、レンジローバーの方が開口部が低いのでだいぶ使いやすいです。
総評
迫力のあるボディサイズですが、運転はかなりしやすいです。
カイエンとはまた違ったアプローチでその視認性や操作性を実現しているというのが非常に面白いと思いました。内装の美しさと、ジャガーエンジンのサウンドを楽しむことが出来るというのはこの上ない贅沢です。
もちろんお金はかかるクルマですし、維持費はかかりますがそれでもこの美しさと得られる豊かな時間は唯一無二です。