ラリーを席巻した歴史的モデル
ランチアはラリーカーのイメージが強いです。ストラトスや037、デルタなど二駆時代も四駆時代も勝利してきた名門です。
中でもデルタインテグラーレは、ファミリーハッチバックをベースとして作られたモデルなので生産台数も多く、馴染みがある人もいるでしょう。今回はそのランチアデルタの最終モデル、HFインテグラーレエボルツィオーネⅡの中でも30台しか無いコルサ9という仕様を市場インプレッションしていきます。
ランチアデルタHFインテグラーレのデザイン
フロントは丸目四灯のライトとランチア伝統のグリルが目立ちます。このコルサ9という仕様ではグリルが黒に変更されます。
フロントから見てもワイドに張り出したフロントフェンダー。並みのクルマで無いことは一目瞭然。
リアはシンプル。リアウィンドウの傾斜は比較的キツく、直線基調なデザインが伺えます。トランクの左側にコルサ9のバッジ、右下にインテグラーレのバッジがそれぞれ貼ってあります。
サイドビューはこんな感じ。この車両は17インチに変更されています。標準のエボルツィオーネⅡは16インチ、エボリューションⅠは15インチです。リアのオーバーハングはほとんどなく、フロントはややボリュームを感じます。
ほぼ垂直なくらい立っているウィング。最近のクルマのウィングは曲線で構成された効率の良いものがほとんどですが、デルタHFインテグラーレのそれは板です。
ランチアデルタHFインテグラーレといえばこのブリスターフェンダー。こうして見ると本当に少ない線だけで描かれています。最も迫り出している一本の線とボディをなだらかに局面で繋げています。
リアだけでなくフロントもこれだけ出っぱっています。フロントフェンダーには空気穴が開けられています。このフェンダーは鎧のようで、どことなくアンキロサウルス的な恐竜要素が滲み出ていると思います。
蜘蛛の巣のようなデザインのホイール。ブレーキは対向ピストン。ノーマルの16インチだともっとパツパツに入っている感じになるでしょう。
ランチアデルタHFインテグラーレのデザイン
momoステアリングに変更。メーターは合計6個あります。一番右がタコメーター、左がスピードメーターです。普通重要なものを中央に置くと思うのですがデルタの場合は水温やバッテリーの電圧が重要ということなのでしょうか。イタリアの香りがしますね。
フロントシートはセミバケット。比較的大きいので体格は選ばないと思いますが、天井が近いので173cmの私が座っても髪の毛が当たります。
デルタHFインテグラーレは内張もシートと同じ色のアルカンターラで、ノーマルと比較するとかなり高級感が感じられます。
ドリンクホルダーはありませんがダッシュボードのところに置けます。
トランスミッションは5速マニュアル。シャキッとしたフィーリングで気持ちよく入ります。
ペダルは全て吊り下げ式。どのペダルも真っ直ぐじゃない気がします。ポジションは全体的に右に寄っていて、アクセルとブレーキが至近距離に設置されています。イタリア車は割とアクセルとブレーキが近いですね。ホイールベースが非常に短いのでハッチバックとは言えタイヤハウスが足元まで来ているということだと思います。
試乗インプレッション
一般道
クラッチは硬さや神経質な感じはありません。踏み込んで半クラを探しながら戻していくと、真ん中あたりは少し柔らかくなっていて、そこで繋ぎます。エンジンのレスポンスは2500rpmくらいまでは反応の良いNAみたいで、そこからタービンが働き始めて一気に出力します。
2速、3速と繋いで行っても特に変なところはなく案外普通に乗れます。クラッチミートも簡単なので気難しさは意外なほどありませんでした。
タイヤがネオバ03Rなので肩がしっかりしていますから、下道でも路面に応じて反力がかなり伝わってきます。ステアリングは重く、ごくわずかな遊びがありますが、ワンハンドステアで乗るほどヤワではありません。
ブレーキもクラッチ同様、ややソフトな感触が感じられます。ブレーキ開度30%くらいはしっとり止まるのでGの少ないブレーキングが可能。ハードに踏めばしっかり止まるという二面性を持ちます。
高速道路
ベースとなるランチアデルタHFインテグラーレエボルツィオーネⅡ自体は215psですが、コルサ9は排気系などに手が加えられており230psまで引き上げられています。現代の基準では決して速いとは言えませんが、この臨場感は現代のクルマでは絶対に味わえません。
ロードノイズは全て聞こえており、それに引けを取らないほどのメカニカルノイズが響き渡ります。外から聞くと中々の轟音であるマフラー音は高速道路においては影が薄くなります。それよりもダッシュボード中央からエンジン、運転席前方からタービン、そしてフロア付近からトランスミッションの音が響きます。
通常は四角いミラーですが、コルサ9はこの超小型の丸型サイドミラーが装着されます。視認性は皆無なのでオーナーさんは巨大なルームミラーにして対応。これがないと追い越しが一苦労。窓は大きく低い位置にあるので、ルームミラーだけでかなり視認性を拡大出来ます。
イタリア車らしく、スピードメーターは100km/h付近が見えにくくなります。つまり、感じろということだ。スピードは見るものじゃないのです。感じれば良いのです。
80km/hを超える領域だと2200rpmでもタービンが効き始めて強烈なサウンドとパワーを披露します。高速巡航マシンではありませんが、100km/h付近での加速は”機敏”といった感じでした。エンジンパワーや排気量、駆動方式などは私のTT1.8Tクワトロと似ていますが、ターボとエンジンの共存の仕方はまるで違います。
ランチアデルタHFインテグラーレは2000rpmくらいまでNAのような音と加速、2000〜3000rpmでターボとNAのマリアージュ、3000rpmを超えるとターボ色が濃くなっていきます。最近のターボ車はずっとマリアージュしたフィーリングです。
総評
操作系のクセは予想外なほどに少なく、素直なクルマでした。
もちろん限界領域でコーナーを走ったりしないとこのクルマの正体を知ることは出来ないというのは承知ですが、雰囲気を体感するだけで私はお腹いっぱいでした。危険なほどには速くないが、音や振動でそれを補うので免許にも優しいです。
運転席からの景色で「俺はデルタHFインテグラーレに乗っているぞ」という気にさせてくれるのも魅力。