試乗記

ポルシェカイエン(955)試乗インプレッション|ちゃんとポルシェを感じる乗り味

歴史を変えた名車

昨今のSUVブームにより、都心ではGクラスやレンジローバーが闊歩しています。

本来オフロード走行のために開発されたこれらのクルマたちが街乗りや日常使いで活躍している光景はポルシェカイエンの影響が少なからずあると私は考えています。

単にSUVと言っても2種類に分けることが出来ると思います。一つはオフロード出身、もう一つはセダンベースなどのモノコックSUVです。前者はGクラス、ランクル、レンジローバーがその筆頭で、元々は前後リジッドアクスルのラダーフレームという屈強なクルマたちです。後者はX5やカイエンなどが挙げられます。

カイエンは2002年に登場したSUVでフォルクスワーゲントゥアレグとプラットフォームを共有します。カイエンの登場によってレンジローバーしか存在しなかった”高級かつ高性能なSUV”というジャンルが拡大されるきっかけとなったことは間違い無いでしょう。まさにゲームチェンジャーです。カイエンが登場しなければランボルギーニウルスやベントレーベンテイガ、フェラーリプロサングエなどが生まれることは無かったでしょう。

ポルシェカイエンのデザイン

デザインの特徴は私が考えるに2点あります。一つはポルシェらしいフェンダーに配置されたライト。もう一つは前後のオーバーハングを切り詰めたスタイルです。

同世代の911は996型なのでそれに似たライト形状をしています。通常SUVではグリルの横、つまり地面と垂直な面にライトを配置しますが、開演はボンネットと同じ面にライトがあります。それが発売された当時にどことない違和感を与えたのでしょう。最近のスポーツカーメーカーのSUVはほとんどそれに習っていますのでカイエンがデザインにおけるゲームチェンジャーだったわけです。

カイエンは5人乗りのみをラインナップしています。同クラスのQ7やボルボXC90が7人乗りを展開する中、現行世代であっても5人乗りを貫いています。ボディカラーがもう少し明るいグレーだと、ピラーがシルバーになるのでかなり印象が変わります。この個体は地味仕様。

リアはサイド2本出しのマフラーとテールゲートの下のメタルのパーツがアクセントになっています。

V6モデルとV8モデルは同じフロントバンパーで、ターボだけが開口部を大きくしたものになっています。955はこの優しい顔つきがいいですね。

インテリア

内装は地味で機能的です。955や957世代のカイエンは内装に高級感はなく、良くも悪くも雑に使えます。

ただエアコンスイッチ類はこのようにスライド式のカバーで隠すことが出来ます。

ライトの操作はダイヤル式のもので、これはこの世代のフォルクスワーゲン系でよく見られます。TTも同じでした。

シートはメルセデスベンツよりはやや柔らかいです。サイズもちょうど良くフィットします。パワーシートでシートヒーターなどはもちろんオプションです。この個体はほとんどオプションが入っていないのでシートヒーターはなし。

リアシートは一応3人座れますが、硬いですし足元にはドライブシャフトが通っているので狭いです。実質4人乗りと考えて良いでしょう。

試乗インプレッション

一般道

955型カイエンは全長こそ4.8mと現代の基準では決して大きくはありませんが、全幅は1.95mあるので下道では少し取り回しに苦労するかもしれません。ただ、ハンドルの切角は中々の物ですし多少の段差であれば乗り上げることもできるので結構狭くても大丈夫です。

カイエンを運転していて思うのはブレーキ操作のしやすさです。これがカイエンをポルシェらしく演出している大きな要因だと私は考えています。アクセルレスポンスは敏感すぎるくらいで、これは高速道路の方が向いていると感じます。

ハンドルは油圧パワステで、この手のSUVにしては重いです。ハンドルの遊びは少ないので確かにポルシェが提唱する「新たな形のスポーツカー」に当てはまっているのかなと思います。ワインディングで走らせると下手なセダンよりもキビキビ走ってくれます。

高速道路

ドイツ車は高速道路で本領発揮するクルマが多い印象ですがカイエンもやはり高速道路の方が向いていると私は考えています。

V6モデルは2.3tのボディで250馬力なので”遅くない”程度です。追い越しに困ることはありませんし、アップダウンの多い中央道では優秀なティプトロがストレスのない走りに貢献してくれます。

車高が高く分厚いタイヤを履いた純正17インチホイールなのでロードノイズも少ないです。キックダウンはアクセル開度50%くらいで反応するので調整は難しいです。だからこそクルマとの対話が必要で、それこそが操っている感なのでは無いかと思うんです。癖はあります。

ハンドリング

下道でのハンドル操作は後輪の位置をしっかり意識して運転すれば特に困ることはないと思います。

Gクラスだとサイズ的に入るけど技術的に入らない駐車場がありますが、カイエンでは物理的に入る場所なら技術的にも入ることがほとんどです。ボディサイズの割には小回りが効くクルマだと思います。

ブレーキ

全てのペダルが吊り下げ式です。ブレーキの遊びは最小限でリニアな踏み感が操作しやすいです。

制動力自体は目立つほど強力ではありません。ただ、最も廉価版であるV6モデルでも前後対向ピストンのキャリパーを採用しているあたりポルシェのこだわりが伝わってきます。ブレーキング中の姿勢がフラットでつんのめりにくいので、見事です。こういうところが積み重なって疲れにくいクルマに仕上がっているのだと思います。

エンジン

955型は3.2L,V6モデルのカイエン、4.5L,V8モデルのカイエンS、4.5L,V8ターボのカイエンターボがあります。

3.2LのV6はトゥアレグやゴルフR32などと共通のエンジンブロックで、バンク角が非常に小さいVR6と呼ばれるものです。250馬力で2t強のボディを加速します。点火タイミングが直6と同じなので停止中以外振動の少ないエンジンです。停止中も十分静かですけどね。

V6モデルはエンジンが綺麗に心地よく回るため、良くも悪くもエンジンやブレーキの異音がよく聞こえます。

もちろん個体差はありますが、素性の良いものであれば定期的にエンジンオイルを交換するだけ(5000km毎くらいでOK)でほとんど壊れることはありません。この個体もワンオーナーの6万キロで購入して5年ほどで6万キロ走りましたがエンジンの故障は一度もありません。

ティプトロが優秀

カイエンでは初期からずっとトルコンオートマであるティプトロニックが採用されています。マカンやパナメーラがPDKを採用していても頑なにティプトロを採用し続けています。カイエン以前のティプトロは964型911や968で採用例がありますが、ミッション屋さんに聞いてもオーナーに聞いても故障が少なく使い勝手が良いと評判です。

ティプトロニックは傾斜を感知したり、乗り方によって数パターンのシフトタイミングに変化するような機構が備わっています。

急坂を下るときにシフトをホールドしてエンジンブレーキをかけてくれるので乗りやすいのです。

シフトノブを左側に倒すことで所謂マニュアルモードにすることが出来ます。また、カイエンにはハンドルにシフトチェンジ用のスイッチがあるのでこれで操作することも可能。このボタンはパドルシフトとは違い左右両方ともでシフトの上げ下げができます。

マニュアルという選択肢

カイエンのV6モデルとGTSには955、957、958世代でマニュアルが選択できました。

V6モデルのマニュアルは割と市場にも出回るのでそこそこの台数がオーダーされたのでしょう。ターボや普通のV8モデルでは選択できないのであえてV6でマニュアルという人もいたのでしょうね。

積載能力

ポルシェカイエンは5人乗りしかなく、後席はフルフラットにすることが出来ます。

ヘッドレストを外して座面の下に出ている輪っかを引っ張り、そこに背もたれを倒して収納します。慣れれば1分もかからずにできます。2:1に分割して倒せるので用途に応じたレイアウトを選択出来ます。

ちなみに、シートを倒していない状態だとゴルフバッグを真横に積むことが出来ません。斜めにすれば入るので4人4バッグは可能ですが意外とゴルフ向きのクルマではないのです。スキー板は後席中央のアームレストの所を貫通させることが出来るのでそれは考慮された設計のようです。

トランクは窓部分だけ開けることも可能なので、荷物が満載になってもさらに積み込めます。レンジローバーなんかはトランク自体が上下の観音開きになっていますがカイエンなどドイツ車はこのスタイルが多い印象です。

整備性と維持費

カイエンには持病と呼ばれるものが一つあります。

それはカルダンシャフトというパーツで、10万キロくらいで故障する個体が多いです。駆動系のパーツで、かなりの異音が出るので壊れた瞬間に気付きます。カルダンシャフトはディーラーで交換すると20万円くらいかかりますが、専門店に頼めばオーバーホールを5万円くらいでやってくれるところもあります。

カルダンシャフトが破損した時はフロアからバタバタという音と振動がありますが、一応走ることは出来ます。ただそれで100kmも走るというのは他のパーツへの影響も懸念されるのでレッカーしてください。

それ以外はライトの接触がイマイチだったり、年式によって何種類もあるくらいです。社外品含めパーツはまずまず出ますので特に心配は要りません。保管環境によりますが、この世代のヨーロッパ車あるあるの天垂れも起こります。なので天垂れを治してあると理想ですね。

まとめ

今カイエンは100万円程度で購入することが出来ます。しかし実際は新車価格700万円超えのクルマです。

確かに700万円にしては高級感は感じられませんが、カイエンはポルシェです。700万円の大半はその機能面に使われていると思って良いでしょう。アップダウンのある中央道で120km/h巡航を快適にこなし、駐車場にも特に困らず、使い勝手も抜群なSUVです。

中古車を選ぶときは、10万キロくらい走っている個体でもカルダンシャフトの修理歴があれば大きい故障はほとんど起こらないので、お得物件があるかもしれません。逆に7万キロくらいで買ってしまうと早ければ8万キロくらいでカルダンシャフトの破損が起こるのでトータルコストは10万キロ超え個体の方が安くなることも十分考えられます。なので整備歴が重要な車種だと思います。

我が家の開演は4年間で6万キロ走行して、カルダンシャフトの修理(オーバーホール)に5万円と5000キロごとのオイル交換=12回=訳15万円の計20万円しかかかっていません。もちろん、車検やガソリンはかかりますがそれは他の車種でも同じようにかかります。維持費はかなり安いと思いますのでぜひおススメしたいです。

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